心の雑草

「げ」と申します。心の雑草を抜いては肥料に変えていくブログ。

例のマフィンのお店、あらゆる観点からダメでは……?

過去に飲食店で勤務し、実際に食事や飲み物を作って提供していたこともある身としては非常に……なんというか「うわぁ」みたいな気持ちしか出てこない件。

これ、食品衛生的な知識とモラルの欠如は当然なんですが。
その後に出てきたシュトーレンやら何やらの様子を見るに、そもそも「自分が作っているものの知識」すらだいぶ怪しいんですよ。

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安全>美味しさ

自分が初めて働いた居酒屋。
初日に料理長と面談があって、その時に「一番大事なことはなんだと思う?」と聞かれました。

飲食店だし、やはり美味しいものを提供することかな?と思ってそう答えると不正解。
正解は「安全なものを提供する」でした。これは刺身やサラダなどの生物なら腐っていないことだったり、肉や魚の焼き物だったらしっかり火を通すことだったり……。
これを聞いた時に、なんとなく「ああ、飲食で仕事をするってのはそういうことなんだな」と思った記憶があります。

大前提として、お客さんの健康を損なうようなものを提供してはいけません。その前提の上に美味しさを積み重ねていくのが、趣味で自分用の食事を作るのではなく、金銭をいただいてお客さんに食事を提供するということ。
そこにはもちろん「食中毒でも出したら店が終わる」というようなドライな感覚もあるけれど、それを意識することでお客さんも守られるのだからここは真っ先に守るべきなんですよね。

ここまでに関しては、今回のマフィンの話だけじゃありません。
少し前にあった駅弁屋さんのトラブルもそうだし、低温調理を正しく理解していないようなほぼ生肉チャーシューを出してくるラーメン屋なんかも以前ありましたね。
調理方法だったり保存方法だったり、その辺の観点からも衛生意識の低い飲食業というのは散見される印象があります。どうなってんだオイ。

「なぜその作り方なのか」を理解していない

で、今回のマフィン屋さんに関してはこれに加えて「マフィンとは何か」「シュトーレンとは何か」みたいな、料理そのものに対する知識も甘い気がしています。

自然派食品を謳っていたこのお店、健康をメッセージとして掲げるが故に砂糖などの使用量を半分に抑え、バナナやさつまいもなどの腐敗が進みやすい食材が多め。
さらにオーガニックなので、当然ながら防腐剤や保存料などの食品添加物は不使用。

さて、この状態で作られたマフィン。18度以下という「それ常温やろ」という基準環境の中、最長5日間(それ以上前から製造していた疑惑もあるようですが)保存されていたそれ……安全なわけがないよねというお話。
しっかり砂糖を入れたりするのは、そうやって一定濃度を超えた糖分が入ることで腐敗が遅くなるからです。原理としては塩漬けの肉とかと同じだと思う。

おにぎりに何故塩を振るのか。しめ鯖は何故酢で締めるのか。
現在は衛生レベルが発展したから軽視されがちですが、こういうのって「その方が美味いから」じゃないんだよね、根本的に。

シュトーレンについても、これは1ヶ月以上日持ちするという特殊な菓子パン。その理由はバチバチに加えたドライフルーツやマジパン、表面を完全に覆うほどにまぶした粉砂糖などの糖分によって腐ることを防いでいるからです。
「健康志向!」「自然派!」なんていうコンセプトのもと、糖分を減量した上で保存料・防腐剤を使わないシュトーレンなんて……それが1ヶ月持つことなんてありえないでしょう。

基本的には「必要だから」添加されていると思うのですが

そもそも「防腐剤や保存料がない時代に生まれた食品」だったりする場合、そのレシピや調理工程には「そういった添加物がなくても保存が効く仕組み」が内包されているわけです。
例に挙げたおにぎり、しめ鯖、シュトーレンなどは典型的なそういう人類の工夫の結晶だと思う。

現代において、それらはある種のトレードオフ関係なのだと思います。
昔ながらの作り方には、理由がある。漬物の塩分なりお菓子の砂糖の量だったり、多いのには多い理由があります。
それを現代における健康志向と、使い過ぎる添加物への反動として抑えるつもりならここに無理が生じる。
言ってみれば保存料や防腐剤、それらを使用することによって間接的に減塩やカロリーオフが実現している部分もあると思います。
現代において添加物が使用されるのは、それもまた理由があって使用されているということを見落としているお店は結構ありそう。
そういう事実に目を向けないまま、安易に否定だけすると、今回のような結果にたどり着くように思います。

他にもいろいろおかしい……

今回問題になったマフィンについて返品を受け付けたようなんですが、その方法がレターパック郵送だったり。
そもそも「出来立て」と言っていたらしいのですが、実際には「出来立て(5日前)」だったりするものも混じっていたわけでして……。

とりあえず衛生意識の低さと、食文化や歴史に対する無知の結果がマフィンの危険性クラス1判定。これは「重篤健康被害を引き起こす可能性があるもの」であり、同じクラスにボツリヌス菌が含まれていて普通にゾッとしました。
つまり命を落としかねないって判定されているわけです。事の重大さをマフィン製造者があんまり理解できていないようですが。

食べることも作ることも好きだし、かつて飲食に携わっていたこともあってこういうのは結構憤りもあります。
この前サイゼリヤのサラダにカエルが混入していたということもありましたが、あんな風に「気を付けていた上で出てしまう」のは仕方がない。実体験として、飲食業をやっていると防ぐことができない部分があるのは事実です。
ただし今回のマフィン、そうではなくほぼ全て人為的なミス。「作っている人がちゃんと分かっていれば全て防げた」類のミスの積み重ねの結果なので。

今回マフィンが出品された「デザインフェスタ」というイベントも、今後は流石に出品者の選定をもっとシビアにやらないとダメだと思います。
「オリジナルであれば誰でも無審査で参加できるアートイベント」だそうですが、そうやって敷居をあまりに下げすぎたのがこれじゃないの?
フードエリアへの出店条件は、公式サイトを見る限りわりとしっかりしていますが……まあ今回のマフィンのように、製造日やその保存状態までは審査できませんしね……。