心の雑草

「げ」と申します。心の雑草を抜いては肥料に変えていくブログ。

奈良時代はゴリゴリの政治闘争世界だった

先日、木本好信著「奈良時代」を読了しました。先月末のまとめでも少し触れましたね。

サブタイトル「律令国家の黄金期と熾烈な権力闘争」の通り、この時代は朝廷内部での政治闘争フェスティバル。
天皇の座をめぐり皇族同士も探り合い、さらにそれに絡むようにして不比等から一気に拡大した藤原氏族と、他の公卿政治家達との権力争いがずっと続く時代。反乱も起きるし、逆に邪魔な相手を冤罪で権力の座から引きずり下ろしたりと非常に陰湿。
それどころかどうも藤原氏同士でも不仲だったりしたようで、本当にやべえですね。
挙げ句の果てには皇族でもなんでもない僧侶・道鏡天皇にしようと画策する宇佐八幡宮神託事件まで発生。
奈良時代」という言葉からは天平文化が連想され、一見優雅な気配すら漂いますが……一方で政治の世界はとんでもなくダーティだったようです。

スポンサーリンク



聖武天皇を再考する

奈良時代」の中では藤原不比等による政治から、称徳天皇の暴走とその崩御までが描かれていますが、一つ注目したいのは聖武天皇について。
まあざっくりいうと、この本の中では聖武天皇がかなり酷評されています。これは自分のように、この時代の知識が学校教育程度のレベルしかない人間からすると割と衝撃ではあったんですね。

聖武天皇といえば奈良・東大寺の大仏です。実際これは現代でも残る日本を代表するものの一つであり、文化の分野における聖武天皇の功績は確かに大きいと思うんですが……一方で「政治家」として聖武天皇を見ると、だいぶ無茶苦茶なことをやった人でもあります。

仏教に目覚めた聖武天皇は、その仏教を篤く信仰することが日本を良くするという「鎮護国家思想」に傾倒することになります。
その結果国策として全国に国分寺国分尼寺の建立を命じ、さらに東大寺の大仏を作ることも命じたわけですが……何が起きたかというと、それらのために民は重税を強いられることになるわけですね。
現代人はその結果として残った国分寺や大仏だけを見ることができますが、当時の庶民からするとだいぶ意味の分からないことになっていたんじゃないかと思います。

さらに聖武天皇には謎の放浪期間があります。

こちらのnoteが詳しいですね。

740年から745年の間は平城京を離れ、各地を放浪。
それどころか行く先々で「ちょっとここに遷都するわ」みたいな感じでどんどん都を移す詔を発令して、上の仏教建立に合わせてさらに民の生活を苦しめます。

正直、この本を読んで聖武天皇に対するイメージが完全に変わってしまいましたね。
こと政治の観点から見る限りでは、屈指のダメ政権なのではないかと思ってしまいました。

終わりなき政治闘争

藤原不比等と、その4人の息子である武智麻呂・房前・宇合・麻呂の4兄弟が台頭。政敵である長屋王を自害に追い込み(長屋王の変)、完全に藤原四家による政権が誕生します。
そんな藤原四家も、その中でも仲違いがあったのではないか……なんて話も書かれていて面白かったですが、結局疫病の流行によってこの4人がまとめて世を去るという事態に。
そうして次に実権を握る橘諸兄が現れますが、宇合の長男である藤原広嗣が反発して挙兵(広嗣の乱)。
その後は諸兄派が力を失っていくのを見逃さず、武智麻呂の次男・藤原仲麻呂が台頭。
しばらくは仲麻呂政権が続くものの、その裏側では孝謙天皇仲麻呂の仲が悪化していきます。そして色々あって重祚した孝謙天皇改めて称徳天皇は、もはや天皇家の血筋ですらない僧侶・道鏡を次の天皇にしようと暴走……と。
道鏡称徳天皇が亡くなった後に力を持ち始めるのは、宇合の八男である藤原百川です。
これらがわずか70年くらいの間に全て起こったことだと思うと、奈良時代の政治はどれだけ不安定だったんだよ……と思います。

こうやってザッと並べると、藤原氏とそれ以外のとの権力争いがずっと繰り返されているのも分かりますね。
政権を握るのも交互という感じで、不比等長屋王藤原四家橘諸兄仲麻呂道鏡称徳天皇→百川……という具合。その入れ替わりのタイミングでは大抵反乱が起きていたりしますし、そんな反乱自体を事前に潰すべく権力側が冤罪でライバル有力者を始末するということが頻発していました。怖い。

天平文化の裏にある血みどろの世界

学校教育ではこの政治闘争、触れるにしても結構サラッと流されて終わりという印象です。「宇佐八幡宮神託事件ってあったなあ」みたいな程度かと。
むしろ歴史資料集などのビジュアル的な印象も強いのか、天平文化が開花した時代というイメージが強いですね。

でも本当に面白いのは、多分ここまで書いてきた政治闘争のほう。
それこそ「鎌倉殿の13人」のような作品があっさり作れてしまうような世界があったように見えます。この時代の大河ドラマ作れたら結構面白そうなんですよね。この時代を全て見てきた人がいるかというと難しいので、一人の人間を主人公にした作品には出来なさそうですけど……。