心の雑草

「げ」と申します。心の雑草を抜いては肥料に変えていくブログ。

資本主義の悪魔に飲み込まれた「資本主義の悪魔」の作者

先日Twitterでトレンド1位にもなっていた「資本主義の悪魔」。
これはTwitter上にアップされた短編漫画で、売れない漫画家が本当に自分の描きたいものを描くことを後押しする「漫画の悪魔」を呼び出し、自分や出版社の担当に巣食う「資本主義の悪魔」と戦う……みたいな話なんだけど。

「売れる漫画のためにはちょっとしたお色気とか努力する主人公のような、描きたいものだけではない読者サービスも必要」
「商業誌なんですから」
と言った資本主義とせめぎ合ってるんだけど、そもそもこれを描いている作者自身が自分のFANBOXに誘導したり、はたまたTwitterプロフィール欄では商業誌を目指していると書いていたりと資本主義に飲み込まれてて、いやはやなんとも。

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作中で「資本主義の悪魔」として否定的に描いておきながら、その漫画を描いた当人はその資本主義の中で成功しようとしていてとんでもないことになっているように見える。

作中にも垣間見えるんだけど、何でも明確に白/黒で線引きしようとするタイプの人なのかなあと思います、この漫画の作者さん。グレーゾーンが許せない性格なのかもしれない。
それこそ「女性の性搾取を推進したり」なんて作中に出てきて、これは漫画におけるお色気シーンなどを指摘しているんだろうけど……そういうふうに短慮にレッテル張りしているから良くないような気もする。
漫画やアニメにそれなりに触れていれば肌感覚で分かるはずなんだけど、セクシーな女性キャラクターが好きで憧れたりする同性ってのはそれなりにいますよ?性搾取にしか見えないなら、そういう偏った創作物や、それこそ駅の広告に文句を言うようなフェミニストのいう偏った思想にしか触れてないんじゃないですかね?


そもそも「資本主義=悪」という考え方がね。当然悪い面もあるが、いい面があったから戦後の人類はここまで資本主義を中心に発展してきたわけで。
これに関してはこの漫画だけの話じゃなくて、世界的にそういうフェーズに入っているような気はする。
長いこと続いてきた資本主義社会の成長が止まり、むしろその歪みが可視化されてきているのが今の人類なのは事実。だからといって「資本主義は間違ってたんやな」は話が雑すぎるんだわ。
そこにきて共産主義を改めて持ち出す勢力が結構目立ってて自分は辟易してるんですが、その勢力が持ち出す共産主義が基本的に「失敗した共産主義」から別段アップデートされていないんですよね。資本主義が失敗だったと断じるなら、ソ連みたいなレベルで大失敗した共産主義も既に失敗したんだからダメって論法にならないとおかしいでしょうが、あの界隈。
……というかこの漫画の作者、そういう思想側の人なのかな?やたら綺麗事を並べるのは、実に共産主義的に見える。

「資本主義の悪魔」の方に話を戻しますが、結局は「性搾取や良心と異なる言葉を言わされること、過剰な労働、そういう社会はおかしいって自分たちは言い続けないと行けないだろ!」と担当に言い返した結果担当が目が覚めて……みたいな、いかにもな綺麗な話なんだけど。
そもそも漫画家って「自分が描きたいこと」と「商業的に売れること」の両立を目指すのであって、そのどちらかって話じゃなくないですか?別にこの二つは敵対するものではない。
例えばワンピース。その理論で言うと、尾田栄一郎先生は描きたくもないテーマで100巻以上も描いているとでもいうつもりなんですかね?ワンピースってグラマーな女性キャラもたくさん出てくるね。……もしかして羨ましいのかな?描きたいこと描きながら、資本主義社会的にも大成功している漫画家が。


これが「この漫画を描いている作者自身もまた資本主義の悪魔に唆されてこれを描いている」というところまで含めて一つのメタ作品だと解釈すると、非常に趣深いんですがね。果たして作者自身はそこまで考えているのかどうか……特に作中唐突に出てくる性搾取の話でその辺かなり「ん?」となりますし。なーんかこの漫画の作者の思想が若干きな臭いんだよねえ……。

コメントでは「承認欲求の悪魔」とか「正義の悪魔」とか書かれてたりもするけど、自分の読んだ限りは「資本主義の悪魔によって描かされた、資本主義を否定する漫画」みたいな構造になっていて絶妙に風刺効いてるな、という印象です。
作者本人のスタンスからは微妙に共産主義性を感じるけど、この漫画をTwitter上で公開した上で自身が目指しているのは現代資本主義の枠内の成功でしかない……というのが凄まじい後味を残しますね。なんか寓話的というか。