心の雑草

「げ」と申します。心の雑草を抜いては肥料に変えていくブログ。

【読書】「近畿地方のある場所について」を読みました

一度一気に最後まで読んだ後、現在2周目を読み直している「近畿地方のある場所について」。

ジャンルとしては、大枠では一応小説になるのかな。
筆者であるライターの背筋氏が、あるきっかけで知り合ったオカルト雑誌の新人編集者・小沢くんに協力する形で「近畿地方のある場所」についての怪談や、不可解な事故・事件などについての情報を集めていきます。
その場所では複数の異なる怪談が語られていたが、それらを辿るうちに一つの大きな「何か」が見えてきて……。

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ネット時代に産まれた新感覚ホラーコンテンツかも

文章としては、過去の新聞記事。小沢くんの勤めている会社のオカルト雑誌から抜き出した過去の記事。ネット掲示板の書き込み。背筋氏自身が行ったインタビューの書き起こし。小沢くんの会社に届いた怪文書……こういったものが時系列もあまり整理されないまま提示され、その間に背筋氏と小沢くんの進捗状況のミーティングの様子が挟まるといった感じ。
それぞれは本当に短いものだと1ページにも満たなかったり、長くても10ページ程度のボリュームのものが淡々と続くのですが……それら情報の断片を読み進めるうちに、少しずつ点と点が線となって繋がっていく感覚が楽しい。
「序盤で語られていたこの怪異、原因はこの事件か……」みたいな感じです。

一周目はただ巻き込まれるかのように読みましたが、2周目の「分かった上で読む」状態がこれまた面白い。
時系列が気になって、ページを戻ったりしながら読んでいます。

フィクションなので安心!安心……?

おそらく文体も相当凝っていて、オカルト雑誌の記事だといかにも胡散臭い文章だったり、新聞記事であれば固い文体になる。
ネット掲示板ではそれっぽく横書きになり、書き込んだ人間のIDなどまで書かれていて徹底的にリアリズムがあります。

ジャンルは「モキュメンタリー・ホラー」。
フィクションをドキュメンタリー風に演出したものなので、当然ながらこの本で語られる「近畿地方のある場所」自体がフィクションですし、中で語られている怪異や事件・団体なども(モデルはあると思いますが)フィクションです。
とはいえ徹底的にリアルに描かれるそれは、読んでいると非常に怖い。
「なんか分からんけど怖い」系の、びっくりではないじわじわくる恐怖です。

最終的には読んでいる人にも影響が出るような展開でマジでゾワっとしますが、フィクションなんで……うん……。

フェイクドキュメンタリーQ好きにはたまらない逸品

当ブログでも一度触れた気がしますが、YouTubeで公開されているホラーモキュメンタリー動画のチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」と同じようなジャンル。
あちらは映像コンテンツなので、視覚だけでなく音も含めて(時にはそれらのうち一つを意図的に遮断するという手法も含め)多角的に怖いわけですが……。
今回の「近畿地方のある場所について」に関しては、巻末に袋とじで調査資料と題して気味悪い写真や絵などもあるものの、ほぼ全て文字のみで積み重ねているホラー。
どちらが優れているとかではなく、それぞれのアプローチが違うことの面白さもあります。

読書の秋に「近畿地方のある場所について」はどうでしょうか。民俗学的ホラーが好きな人なんかはたまらない一冊だと思いますよ。