これは民俗学というかなんというかという話なんですが、非常に面白いお話をTwitterで見かけたので少し書いてみたいなと。
出産の時に極低確率で羊膜(胞衣)に包まれたまま出てくる赤ちゃんはユーラシア大陸全般でシャーマンの素質や動物に変化する能力を持つ超人の証とされ、英雄が卵から生まらる卵生神話も羊膜出産の反映であり天孫ニニギノミコトが真床追衾に包まれて天降るのもこれでは、という論を読んでふえぇってなった
— 幣束 (@goshuinchou) 2023年9月16日
低確率で羊膜に包まれたまま産まれる赤ちゃん。
これはユーラシア大陸全般でシャーマンの素養や動物への変身能力と結び付けられる……ということで、これがそのまま各地の神話や昔話に要素として取り入れられているっぽい?というお話。
調べてみると実際に羊膜に包まれたまま産まれる確率は8万分の1ほどだそうで、なるほどこれは相当低いなあと。科学や医療の発達していない昔の人類ならば、これを特別な力の証として見るのも自然な話という気はします。
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「何かに包まれて産まれる」という特別性
んでそんなお話、世界各地の神話や昔話にモチーフにしたっぽいものが散見されるそうな。
まずは紹介したツイートでも取り上げられている邇邇芸命。
天孫降臨の際、邇邇芸命は真床追衾(掛け布団みたいなものらしい)で包まれて降臨したのだとか。
天皇家の始まりともいえる神・邇邇芸命が、まず今回取り上げるお話に似た神話を持ちます。
日本国内でパッと思いつくのは桃太郎ですね。
桃太郎に関しては、桃を食べたお爺さん・お婆さんが若返って子供を授かり、それが桃太郎というパターンもあります。
ただ「桃から産まれる」というパターンは、分かりやすく羊膜との関連性を感じます。
桃太郎について軽く調べると結構面白い。口伝の場合は桃から産まれる構造のお話が多いようですし、現在の形に話が整ってきたのは明治時代に入ってからのようです。
動物たちを仲間に加えて……というところは超自然的なシャーマニズムを少し感じるし、何より鬼退治の英雄というのも上記ツイートに符合する部分が多い気がしますね。
もっと直球のところでは、スラヴ人の間に伝わる吸血鬼ハンター・クルースニクが挙げられます。
クルースニクは白い羊膜に包まれて産まれる存在で、赤い羊膜に包まれて産まれる吸血鬼・クドラクとの戦いを宿命づけられた存在。
戦う際はさまざまな動物の姿に変身して戦い、
本来は吸血鬼と人間の混血でないと吸血鬼を仕留めることができないのですが、クルースニクは人間でありながらその能力を持った特異な存在です。
悪の存在であるクドラクも羊膜に包まれて産まれるのでちょっと特殊ではあるけど、いずれにしてもそれが「特別な存在」として結び付けられていることには変わりないかなという。
しかし、なぜ「羊膜に包まれたまま産まれる」ことが善なる方向に結び付いたのかはちょっと気になるところです。忌み子のように、呪いなどネガティヴな方角で捉えられてもおかしくはない気がするんですけどね。
母親という存在の神秘性も色々関わっているんですかね、この辺は。インドの創世神話においては「宇宙は卵から産まれた」というような神話体系もあるし、そもそも卵というものが神聖視されるものなのかもしれません。そこからリンクして、何かに包まれて産まれることが卵のそれをイメージさせて……のような感じで。