一歩です。一晩経ったら思うこと、考えることが増えるのは人のサガ。
というわけで渡辺謙主演「許されざる者」の感想、その2です。
主人公、釜田十兵衛にスポットを当ててお送りします。ネタバレ凄いから引き返す人は今だ!
ちょこっとだけネタバレの感想はこちら。
まだ観てない人はこっちから読んでみてください。
冒頭のシーンの釜田十兵衛(渡辺謙)。
殺した相手から食糧と水を奪い、貪るように食い、飲む。
そこを攻撃された十兵衛は、木の枝を折って追いかけると、無造作にそれを相手に突き刺し、殺す……。
この時の十兵衛は死を恐れてはいなかったし、生に執着していたわけでもない。
「人を斬って、斬って斬って、最後には誰かに斬られて死ぬ。」それだけの人生だと思っていた頃の十兵衛。
生きるために根源的な「飲む、食う」ということを行いながら、人として「生きて」はいなかった。
この時まで十兵衛は「人間」ではなく、「動物」だったと言えよう。
その後妻を得て、愛を知り、子供を授かり、百姓として暮らすうちに、己の罪を知り、「人間」として生まれ変わった十兵衛。
その十兵衛が、「許されざる者」本編の肝。
作中で大石一蔵(佐藤浩市)から
「死人と同じだ」
と言われる十兵衛ですが、彼は本当の意味で「生き始め」てから10年にも満たず、さらに大石が言う生きている十兵衛とは人斬り時代を指すので、まあ見当違いな評価と言えなくもない。
「生きる」という言葉の意味を考えさせられる場面。このあとに続くシーンでの十兵衛の「死にたくない」という言葉がまた意味が深いです。
相棒の馬場金吾(柄本明)が殺されたことを知ると、絶っていた酒を一気にあおり「人斬り十兵衛」に戻るのだけど、この時の十兵衛は、かつての人斬り十兵衛とは異なる十兵衛であるのは当たり前。
「人の心を持った獣」
としての、「人斬り十兵衛」なのである。己の罪を知りながら人を斬るのである。
僻地に飛ばされたとはいえ、政府の人間である大石を殺めたことで追われる者となった十兵衛。沢田五郎(柳楽優弥)となつめ(忽那汐里)に子供達のことを任せたまま、あてのない旅が始まる。
一人雪原を行くラストシーン。十兵衛の頬に流れる、一筋の涙。
「人の心を持った獣」の哀しみが集約された、素晴らしいエンディングでした。