ちょっとしたウイスキーニュースのお時間です。
世界でウイスキー蒸留所を最も多く所有するディアジオ社が、ティーニニック蒸留所の一時生産停止を発表しました。
ウイスキー専門のメディアサイト、Barrelさんの記事。タイトルは「忍び寄る崩壊の影」なんてちょっとショッキングな見出しですが……。
ティーニニック蒸留所は一般にはあまり名前を聞かない蒸留所だと思いますが、実はジョニーウォーカーのキーモルトとして使われている重要なウイスキーになります。
「ティーニニック」を知らなくても「ジョニーウォーカー」はほとんどの人が名前くらいは聞いたことがあるはず。そんなジョニーウォーカーの材料の生産を一旦止めるということですね。
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上記にリンクを貼った記事によれば、ディアジオとしては「今年の生産量計画をすでに上回ったため」というのが停止の理由。
もちろんこれは事実だと思いますが、一方で「なぜ9月末の段階ですでに上回ったのか」という話になるわけです。
ジョニーウォーカーは世界で一番売れているスコッチウイスキーとされており、その原料となるティーニニックの生産を停止しても問題ないという判断をディアジオは下したということ。
個人的には、なかなか象徴的な出来事だと思っています。世界一売れているジョニーウォーカーですら、生産量を落としても問題ない程度に市場は飽和状態ということですから。
長いこと続いてきた世界的なウイスキーブームもさすがに落ち着いてきたんだろうなあ、という気配。
今までは需要に対して供給が追いついていなかったわけですが、コロナやウクライナ情勢などを経てそのバランスは逆転しつつあるのでしょう。
そもそもウイスキーは生活必需品ではなく嗜好品ですから、経済的・社会的・精神的余裕があって初めて売れるものだと思います。
個人的には割と歓迎気味ではあります。ウイスキーくん、とりあえず値段が高くなりすぎなので。
昔は5000円くらいで購入できたボトルも、今は10000円を超えていたりするものがちょいちょいあったりします。
需要に対して生産量が少ないが故のプレミア価格的なファクターもあったはずなので、多少は価格も下がって……くれたら嬉しいなという感じ。実際には原材料費などの高騰があるので、昔のように元の値段まで下がることはないでしょうけどね。
ジャパニーズウイスキーのこれから
ということで、ここからは世界的な話ではなく日本のウイスキー業界のお話。あくまでも個人的な考えですが、結構辛めに書きます。
ウイスキーブームの波の中で、日本中に新しい蒸留所がものすごく増えました。これに関しては以前書いたこともあるんですが、増えすぎていると言っていいレベルで増えました。
そしてこれらの蒸留所、推し並べてウイスキーの価格が異様に高額です。
3年熟成の若いウイスキーが15000円とか、そういうのはザラ。ウイスキーという商品の性質上こうなってしまうのは仕方がない部分もありますが、それを買うくらいならスコットランドの少し長熟のスコッチ買うやろ……というスタンスなのが自分です。
日本の場合ウイスキーに関する法整備などがまだ不十分すぎて、黒い噂を聞く蒸留所もいくつかあります。
国産と言いつつ、中身には海外から買い付けた原酒が混ざっていたりとかね。それはワールドブレンデッドやろがい!とウイスキーを多少知っている人なら思うわけですが、まあブームに乗っかってなんとなくウイスキーに興味を持った人くらいだと騙されてしまうのかもしれないし、まさにそういう売り方を狙っていると思われるやつです。
ボトルのパッケージをちょっと着飾ったものにして、見た目の方で購買層にリーチしようとしたりとか。
そういう状況下で、世界的にはウイスキーブームは落ち着きはじめているわけです。
時間差で日本にもこの流れはやってくるはずで、一般の人が飲むのは1本1万円以上するようなウイスキーではありません。ジョニーウォーカーが世界一売れていることから分かるように、安価で安定して購入できるようなものが最も売れます。日本で言うと角瓶とかです。
大量に発生した新興ウイスキー蒸留所、これらはそういった角瓶的ポジションの商品を生産していません……というか、生産できません。製造できる量の問題とか、そもそもブレンデッドウイスキー大量生産のために必要な連続式蒸留器を日本で持っているのはサントリーなどの大きな企業だけです。
その前提を踏まえた上で、ウイスキーブームが下火になっていくとビジネスとして成り立たなくなるはずで、やはりここからバタバタとウイスキー蒸留所は閉業していくことになるのではないかと思いますね。
早めに操業して、作るウイスキーも高評価されている厚岸蒸留所のようなところなど、一握りだけ残って徐々に淘汰されていくんだろうなあとか考えています。
ラーメン発見伝でも言われていますが「いいものなら売れるというナイーブな考え」はこれから通用しなくなる。
いくら美味しくても高すぎるだとか、そもそも希少すぎて手に入らないだとかでは商売としてその蒸留所は継続できなくなるはずです。
ビジネスの観点まで見たときに、これからどのくらいの蒸留所が生き残れるのか……。日本のウイスキー業界の未来は、明るいのか暗いのかなかなか分水嶺という気がします。
いっそそういった新しいウイスキー蒸留所、買収という形ではなく業務提携みたいな形でサントリーなどと協力できたら面白そうなんですけどね。サントリーのグレーンウイスキーと自分の蒸留所のシングルモルトをブレンドして、こだわりつつも少し手を出しやすいブレンデッドウイスキーを販売してみるとかね。