映画を観たかった。
幸い前から観たいと思っていた作品があり、つい先日公開になったばかりだった。
「蜩の記」である。
3年後に切腹することが定められた男のもとに、その監視役として遣わされた若き侍。
その3年の間に最後の役目である、主家の歴史編纂を終わらせて切腹するという。
7年前に前例のない事件を起こした戸田秋谷(役所広司)は、藩の歴史をまとめる家譜の編さんを命じられていた。3年後に決められた切腹までの監視役の命を受けた檀野庄三郎(岡田准一)は、秋谷一家と共に生活するうち、家譜作りに励む秋谷に胸を打たれる。秋谷の人格者ぶりを知り、事件の真相を探り始めた庄三郎は、やがて藩政を大きく揺るがしかねない秘密を知るが……。
ストーリーも思い返すと綺麗に収束していくのが心地よい作品。
切腹を命じられた一件の真実を知り、本来ならばしなくても良い切腹を止めようと周囲は助けてくれる。
そうして全てが解決した上でなお、自らの意志で切腹することを選択する。
歴史書の編纂の完了。
自身が切腹することになった事件に隠された真相の解明。
住んでいる村の農民と商人のいざこざ。
それらが解決し、綺麗にまとまって行くストーリー展開は映画全体が切腹に向けての大きな大きな身辺整理のような構造になっていて、最後は全てをきっちり整えて腹を召す。
「死ぬことを自分のものとしたい」
という言葉が、ラストシーンからスタッフロールへの流れの中で深く深く突き刺さる。
「この上ない修行となりました」
登場人物の一人、檀野庄三郎の言ったこの一言は、映画を観たこちら側もまったく同じ気持ちになるような、実に美しい生き様でした。
ストーリー的な部分は割愛しますが、役所広司演じる戸田秋谷はいわれのない罪を着せられて、10年後の切腹を命じられ、そしてそれまでの間に藩の歴史を書としてまとめろと言われる。
のこり3年というところで藩からのお目付け役として若き侍、檀野庄三郎が現れ、戸田一家とともに生活しながら戸田秋谷という人物に触れていく。
繰り返しにはなるが、個人的にこの映画は「死ぬことを自分のものとしたい」という一言に集約されているように思いました。
人から定められた自分が死ぬ日。「10年後の何月何日に腹を切って死になさい」を命じられ、それまでの間は自分の意志で死ぬことも許されない。
そんな中でどのように「死を自分のものとするか」というのが主題かと思った。
そのために与えられた藩史編纂という仕事を実直に行い、妻、娘、息子、そして檀野庄三郎という若者に、静かに自分の生き様を見せ、導いていく。
自身が切腹を命じられる発端となった事件の真相にたどり着き、全てに決着をつけ、状況次第では切腹もなしにできるというところまで至っても、自らの意志でその日に死ぬことを選択し、そして腹を切る。
「死ぬことを自分のものとする」
その意味を深く考えさせられてしまいました。
あとほんと、切腹当日のラストシーンがもうズルいというか。
あそこで無駄に登場人物が泣いたりしないのが、切なくも美しい余韻を残してくれた作品でした。
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