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心の雑草

「げ」と申します。「旅=人生」というライフスタイルをめざして、心の雑草を抜いては肥料に変えていくブログ。

ジョジョスピンオフ短編集「岸辺露伴は動かない」感想

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2冊目はこちら、荒木飛呂彦作「岸辺露伴は動かない」だ。
まずは単行本の表紙の美しさに目を奪われる。オッドアイとしてカラーリングされた露伴先生の瞳がステキ。

この短編集は、マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」の登場人物の一人である天才マンガ家岸辺露伴を主人公とした短編集。彼が取材先で体験した「奇妙な出来事」が短編ならではのスピード感でスリリングに描き出されている。
荒木先生は画力やアート性が評価されてばかりですが、サスペンス色の強い短編漫画を描かせたら比肩する人はいないんじゃないかってぐらいストーリーテリングが上手いと思う。
「奇妙な世界でのぞわぞわ来る怖さ」が好きな方なら、ジョジョを知らない人でもお勧めしたいマンガだ。・・・岸辺露伴という人物についてははじめにプロフィールが書かれているしね。
           
収録されている物語は
エピソード16「懺悔室」
エピソード2 「六壁坂」
エピソード5 「富豪村」
エピソード6 「密猟海岸」
そして特別編として描かれた「岸辺露伴 グッチへ行く」
の5編だ。



・エピソード16「懺悔室」
こちらの短編だけは1997年に描かれたもので、絵のタッチも異なる一編。だからって物足りないわけじゃありませんよ。ストーリーのどんでん返し感はピカイチかもしれない。
取材で訪れたヴェネツィアの教会。露伴はその教会の懺悔室にこっそり忍び込んで「リアリティ」を追及していると、彼を神父だと勘違いした男が露伴に対して懺悔を始めた。世にも奇妙な懺悔を・・・。
自分が間接的とはいえ殺してしまった浮浪者の男の怨霊に取り付かれたまま生きていた男。「幸せの絶頂の時にお前に報いを受けさせる」と言い放った浮浪者の怨霊は、男が大金持ちになり、妻と子供に恵まれた時に帰ってきた。
怨霊との戦いに負け、男は首を刎ねられ死んでしまう。
「・・・私のこと『生きてるじゃあないか』・・・そう思ってますね 神父様・・・」
しっとりした恐怖。ひとひねり加えられたエンディングと、それに対して露伴が思った感想が、独特の何とも言えない読後感を残す一作。



・エピソード2「六壁坂」
2008年1月公開の作品。岸辺露伴スピンオフがシリーズになることを決定づけた感じだろうか。近年の「ジョジョ」の画風に近づき、岸辺露伴も写実的でなんだかカッコイイ。
編集者の人間と新作読みきりの打ち合わせ中の露伴。唐突に「原稿料の前借りはできないか」と持ちかける。
マンガに究極の「リアリティ」を求める露伴。なんと取材のためだけに妖怪伝説の残る山と、その周辺の山を含めて系6つの山を買い取ってしまった。リゾート開発を阻止するために山を強引に買い取ったものだから地価は暴落、露伴先生は「モン無し」、だとか。
「取材のためにそこまでやるんですか」と半ば引いてる編集者くんだが、「だが取材の価値はあった・・・妖怪は『ちゃんといたぜ』」と言って、露伴は語り始めた・・・。
山間部に位置する「六壁坂(むつかべざか)村」を舞台にして起きた、一つの殺人事件と事後の奇妙な現象。死んだ後も流れる血がずっと止まらない不可解な死体の秘密とは・・・。
サスペンスから一転、気持ちの悪いホラーへと急展開するストーリーが秀逸。露伴はジョジョの登場人物にもれず「スタンド使い」なので、クライマックスの危機的状況をスタンドでなんとか切り抜ける。
「懺悔室」とは違いスタンドを登場させることで、初めから岸辺露伴を主人公にした物語だということが明確。クライマックスのスタンドでの切り抜けだけではなく、「なぜ露伴がこの殺人事件と事後の現象を知ったのか」にもスタンドが意味を持つのでただのファンサービスにはなっておらず、ストーリー的にも重要なのが良い。
・・・スタンドについてもプロフィールに書かれているので全くジョジョ知らない方もご安心。スタンドってのは超能力みたいなもんです。ワンピースでいう実を食った人の力みたいなもの。
泣きながら流れ続ける血を飲む女はすさまじい。



・エピソード5「富豪村」
「六壁坂」から少し期間を開けて2012年公開の作品。
これまた編集の人間と読み切りの打ち合わせ中の露伴。今回は女性の編集ちゃんです。
「山奥の別荘を買って、その買うまでを取材してマンガ描きませんか?」と言われて露伴チョイ切レ。
「今なんだって?『別荘を買う』って確かに聞こえた!この間・・・僕が『山』買って破産したこと、君・・・知ってるよねぇ?」うーん引きずってるなあ露伴先生。
必死に訂正する編集ちゃん。買うのはこの編集の女の子。それに露伴も着いていって取材しませんか?とのこと。
グーグルで見てみるとこの別荘地、道路どころか送電線も通じておらず陸の孤島と化している。
そして現在この別荘地の区画を所有している11人には奇妙な共通点があった。それは「全員25歳の時に購入している」ということ・・・。そしてその富豪たちは、この別荘地を購入して「から」、みるみる富豪へと昇り詰めていったと・・・。
ちょうど今25歳の編集の女の子。「私が別荘を買うところ、取材しませんか」と露伴にもちかけるのだった・・・。
いざ「富豪村」に行くと、ここの土地を買うにはやたらとマナーを気をつけなければならないらしく、通された屋敷で速攻3つのマナー違反をした編集ちゃんの購入は立ち消えに。
案内人に何か危険を感じた露伴は「スタンド能力」で案内人の心を読むのだが・・・。
なんとマナーに厳しかったのは「山の神」。敬意を払うものには成功を与え、敬意を払えないものは大切なものをひとつずつ失う・・・。
ストーリーの加速度に面白さがある一編という感想。穏やかにはじまったマナーのお話が、一気に生命の危機に進展する。
「大自然への敬意」というテーマからこんなサスペンス物が誕生するとは。



・エピソード6「密猟海岸」
2013年の作品。結構最近のもので、ジャンプに掲載されたものも読ませていただいた作品だ。
露伴が暮らす杜王町でイタリアンレストランを経営するスタンド使いでもある料理人トニオ・トラサルディーに、杜王町の海岸「ヒョウガラ列岩」に生息する伝説の食材クロアワビを手に入れるのを手伝って欲しいと言われた露伴。どうやらその話を詳しく聞くと「違法」だという。
「『密猟』をします」
「だから気に入った」

岸辺露伴にとっては「密猟をする体験」さえも大事な取材なのだ。
さて、実際のクロアワビ密猟。やっぱり今回も危機にさらされる。
アワビがとれるのは本当だったが、潮の流れは不安定で、アワビは密漁者にくっつき、おぼれ死にさせてしまうのだった。古から伝わる伝承は、密漁者殺しの罠だったのだ・・・。
辛くもスタンドで切り抜ける露伴。
ここまでしてトニオがアワビを求めたのは、彼の愛する女性の病を治すため。伝説の食材とトニオ自身のスタンド能力が組み合わされば、その女性の病も治せるかもしれないと・・・。
短編集の中で唯一のハッピーエンド。ラストシーン、穏やかな表情でトニオ特製の「タコのトマトソース煮」を口に運ぶ露伴が印象的だ。



・「岸辺露伴 グッチへ行く」
イタリアの高級ブランド、グッチとのコラボ作品。ジョジョが世界的にアートとして評価されているのがよくわかる。
亡くなった祖母の、グッチの古いバッグ。このバッグには不思議な力があって、「入れたもののうち金目のものだけがすっかり消えてしまう」という。
「修理してくれ!」とグッチの工房にこのバッグを持ち込んだ露伴だったが・・・。
通訳の女性に所持品を一通り盗まれてしまい、手元に残ったのは修理したバッグだけ。イタリアの片田舎で半ば遭難しかけた露伴に、「なぜバッグに入れた金品だけが消え去るのか」が明らかになる・・・。
他の短編よりもぐっと短いが、むしろストーリーのすっきり感、まとまり感が強調されていて面白い。しっかりバッグの謎が軸になった物語だしね。
今回の露伴はグッチの服をまとっています。違和感なく着こなすのも露伴の凄いところか。


以上感想でございました。
いやねー、下手するとジョジョ本編よりも面白いんだよね、荒木先生の短編。「死刑執行中脱獄進行中」という短編集も出てるので、こちらもかなりお勧め。
少ないページ数でぐっと読者を引き込み、独特の切り口で起承転結をスパーンと決めてくる。
ほんと、この「岸辺露伴は動かない」はぜひ読んでいただきたいマンガだ。